易経は、名言の宝庫です。本卦から十翼の広い範囲で、特にこれは!という一節を選び出して、毎回掲載しております。易経を色々な角度から、かみしめるように味わって、より身近に感じて頂ければ幸いです。
〔美の至りなり〕
この言葉は、周易翼伝、文言伝で☷☷坤為地五爻を説明している部分です。
美の至りというと、易経の章句にしては珍しい言葉のように思えて、ひどく浮き立った気持ちになりますが、今回は、この〔美〕について考えてみたいと思います。
人は、〔美〕を大切にしています。見た目の美しさ、形容美だけに限らず、所作や振る舞い、考え方などにも〔美〕があります。所作は、行動につながり、その人の運命を決めるものだと考えられます。
読み下し文は、次の通りです。
君子は黄中にして理に通じ、位を正しくして体に居る。美其の中に在りて、四支に暢び、事業に発す。美の至りなり
周易翼伝のこの部分を読み直してみますと、黄中とは、黄色は、中央の色です。☷☷坤為地の五爻を見ていますので、五爻は、中を得ています。そのため、中庸の精神を持っていて、何事も道理にかなっています。人物に例えますと、スラスラと仕事をこなしてくれます。いわゆる出来る秘書タイプであったり、補佐役のイメージです。
位は不正なのですが、中庸ですので、自分の〔陰〕という分をわきまえています。
そういった、☷坤が持っている〔美徳〕が、内面に秘められているばかりでなく、ひとつひとつの行動や仕草にも、にじみ出てくるようですね。
そのため、しなやかさが外にあふれているから、仕事もこなします。これぞ、〔美〕、〔美徳〕の至りである。と言っているわけです。
あらためて、☷☷坤為地の徳を持った人は、計り知れない安心感があり、自然と養われていく存在です。
それは周囲の人々に反応を起こさせて、癒しをもたらします。まるで地上に降り立った天使や菩薩のように、その存在は素晴らしい能力を発揮します。和顔と愛に満ちた言葉が宿っており、他者に安らぎと力を与えるその姿は、まさに尊いものです。
ご存知のとおり、美容小売業の資生堂は、この☷☷坤為地・彖伝「大いなるかな坤元、万物資りて生ず」の名言が社名の由来になっています。
女性の美を追求することが社是と思いましたが、企資生堂のホームページで企業理念を探しますと、今の時代に合わせてか、今では、男性向けの化粧品もあるので、まとめて〔美〕となっていました。易経が語源となった言葉のコラムもあります。
また、〔美〕には男女が大きく関係してきます。人間には、男と女があり、男は女を求め、女は男を慕う。そして、別れと悲しみがある。男女は愛と悲しみの人生である。キザなようですが、昔から詩歌、劇、文学の名作はこのテーマと決まっていますからね。そして、恋をしているときには、女性は化粧のノリも良くなったり、指先にまで何か、美しさが表れてきます。知らない間に、鼻歌もでてしまいます。
美しい言葉や行動にこそ宿る
☷☷坤為地の言葉が示すように、美しさは見た目だけでなく、その人の内面にも深く関わっています。
唐突に、少し前の話で恐縮ですが、クールビューティの荒川静香さんが、トリノ五輪で見事、金メダルを獲得しました。私は、その時のイナバウアーの瞬間を映した写真を棚に飾っていました。彼女の美しさは、容姿だけでなく、手足先まで、美しさが至るその優雅な振る舞いや内面の輝きによっても際立っていましたね。

また、美しさというものは、単に見た目に留まらず、発する言葉や仕草にも表れます。湧き出る美しさのひとつが特に言葉でしょう。反対に、口が悪い人は、いくら化粧で外見を飾っても、お里が知れて、隠せません。
美しい言葉は人を和ませて、時には人に勇気をも与えてくれます。
美しさの至りは、結局のところ、心から発する美しい言葉や行動にこそ、宿ると言えるでしょう。
子供の頃は、親が育ててくれますが、大人になったら、自分で自分を育てていくことになります。それは、美質を磨くことではないでしょうか。言葉であったり、智慧であったり、忍耐力だったりの美質を磨くことが必要とされます。
私は、自分をいっぱしの易者気取りでおりますが、江戸っ子で柄が悪く、口も悪いと子供の頃から注意されてきました。そのため、私が人を導く易者になるなんて、正直信じられません。しかし、せめてその立場にいる時だけでも、相談者に対して明るい言葉や前向きな言葉を使おうと、意識して、自分に言い聞かせています。
人間に限らず、生きているものすべて、さらには自然界が作り出すあらゆるものに至るまで、それぞれが持つ個性的な形は、〔美の至り〕と言えのではないでしょうか。
自然界のすべての存在が、それぞれに独自の美しさを持ち、自然の創造力が形作る色々な姿が、美の一部となっています。
見渡してみれば、生命の形態や自然の風景、さらには地球上のあらゆる現象に至るまで、それらはすべてが美しさの表現であり、その個性こそが、自然の美しさを際立たせているように感じます。今回は、とりとめのない話で申し訳ありませんが、少々強引に話をしめくくって、ようやく終えたいと思います。
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