いつも日本易学振興協会の活動にご理解とご協力をいただき、誠にありがとうございます。
ここ最近、会員の皆様からお寄せいただく占例や課題を拝見する中で、目にとまる傾向がひとつあります。
それは、残念ながら「正しい卦(か)」を得られていないと感じられる例が増えているということです。
占的の立て方や筮竹の扱いに明らかな問題があるわけではなく、形式は一見整っているにもかかわらず、卦そのものに「命がない」ように感じられるのです。
この問題は決して占術の知識不足や技術の未熟さだけが原因ではありません。
もっと根本的な、「占う者の在り方」に関わる問題といえます。
たとえば、四柱推命や算命学、九星気学といった東洋の占術は、その多くが生年月日という明確なデータに基づく「統計学的占術」です。一定の法則に則って盤を出し、そこから意味を読み解いていくため、使用者の精神状態が大きく影響することはありません。
もちろん、解釈の力や洞察力は必要ですが、占う瞬間の「心の状態」が結果に直結することは少ないのです。
ところが、易占はまったく異なります。
易は「気」を読み、「変化」を見る術です。つまり、問いを立てた瞬間、その問いが発せられた心の動きや場の空気、
時間の波を一手に引き受けて、それを卦という形で可視化するのが易占なのです。ここに、他の占術と決定的な違いがあります。
そのため、占いを行う前には必ず、心を鎮め、無欲・無念の状態で問いと向き合う準備が必要です。
雑念を持ったままでは、偏った卦や不明瞭な卦が出やすくなり、当然ながら解釈も誤ってしまいます。
この「無の心」に至るために、もっとも有効な方法の一つが、座禅です。
座禅と聞くと、宗教的な修行や禅寺での厳しい生活を想像される方もいらっしゃるかもしれませんが、
実際にはもっと身近な実践です。静かな場所で姿勢を整え、呼吸を調え、思考をいったん手放して、ただ「今、この瞬間」に集中する。たった数分の実践でも、心のざわつきが落ち着き、澄み渡る感覚を味わうことができます。
この状態で立てた問いは、卦に素直に反映されます。天と地と自分とがつながり、
その「場」の中で生まれた卦は、生き生きとした答えを私たちに返してくれるのです。
夏は、記録的な猛暑となる地域も多く、ただでさえ心身に疲れが溜まりやすい季節です。
暑さによるイライラや疲労感、不安定な気持ちが、日常生活の中でも表に出やすくなっている今こそ、
自分自身を整える時間を意識的に持つことが求められています。
エアコンの効いた室内で過ごすのも良いですが、一日のうちほんの10分、静かな時間をつくり、姿勢を正して目を閉じ、
呼吸を深くしてみる。その積み重ねが、やがて卦の精度を高め、あなた自身の内面の力を育てていくでしょう。
易占は、単なる予言や未来を知るための手段ではありません。
むしろ、生き方と向き合い、人生の選択を教えてくれる存在です。
不応卦を得ないように、どうぞ、この夏は「自分の心を整える時間」を持ってみてください。
ただ静かに、座り、集中する時間を、どうぞ意識してお持ちください。
そして、その誠の心に、易は必ず応えてくれます。